いつかの花見と野点
もう桜も散りつくしてしまったが、今年は桜の花を満喫したような気がする。
いつかのこと、うららかな春の日の昼下がり、家人と散歩がてら花見に出かけた。
うちのほど近くにまぁまぁ広い運動公園があって、そこに毎年桜が咲く。
ランチバッグに、茶碗、茶筅、茶杓、お抹茶、干菓子、懐紙、ランチクロス、熱湯入りの水筒を詰めた即席の野点セットを手に提げて、その公園までのんびりと歩く。
道すがらの野の花たち。
ナズナ。
ホトケノザ。
タンポポ。
ラッパスイセン。
イヌナズナ。
オオイヌノフグリ。
久しぶりに目にした野の花たち。
小学生時代の通学路を思い出して、なんだか懐かしい。
そして、公園に着いた。誰もいない。
桜が満開だ。
この枝の下で野点をしようか。
ちょうどいいベンチがあったので、そこに腰かけて野点セットを広げる。
家の中とは勝手が違う空の下で少しアタフタしながら、なんとか一服点てて、まずは家人にさしあげる。
そして次は、自服で点てる。
干菓子を口に入れ、薄茶を一服。
あー、おいしい。
心落ち着くひととき。野点っていいな。
上を見上げれば、桜。
桜、さくら、サクラ、、、
帰り道、桜を愛でながら、写真を撮りながら、家人と二人そぞろ歩き。
とりとめのない話を交わして。
こんな穏やかな花見ができるのは、あと何回あるだろう。
老いていく家人と、病めるわたしと。
満たされる心と、せつない気持ちと。
そんなことを思いながら、この春の桜を目に焼き付けて公園を後にした。
辺りは静けさに満ち、春の夕暮れが訪れていた。