【読書】『一切なりゆき』を読みました
樹木希林さんが亡くなってから、二年余が過ぎました。
まだ本当にいないとは思えない、確かな存在感を残し続けている希林さん。
子供の頃に見たテレビドラマ「時間ですよ」でのおばあちゃん役にはじまり、映画でも「東京タワー~オカンとボクと、時々オトン~」、是枝監督作品(「歩いても歩いても」「奇跡」「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」「万引き家族」)の母や祖母役、そして最晩年の「日々是好日」ではお茶の先生と、味わい深い人物を演じ、印象深くその姿が心に残っています。
私生活では、内田裕也というロックンローラーと奇妙に添い遂げ、一人娘・内田也哉子さんモックン家族と、しっかりした家庭を築き上げ守り通した印象があります。
一本筋の通った、そして一筋縄ではいかない強靭さをもった女優、人間・樹木希林さんにいつまでも興味が尽きません。
昨年に図書館で予約した希林さんの本『一切なりゆき~樹木希林のことば』ですが、やっと順番がまわってきて、このたび手にすることができました。
生前、雑誌に掲載されたインタビュー記事などが抜粋収録され、希林さんのことばが語られている一冊です。
「生きること」「家族のこと」「老いのこと、カラダのこと」「仕事のこと」「女のこと、男のこと」「出演作品のこと」が章立てになり、希林さんが遺した数々のことばが、平明に、そして深く、箴言のように心に届きます。
60歳で網膜剥離にて左目を失明し、62歳で乳がんにより右乳房全摘、70歳の時に全身がんであることを公表します。
その後半生は、病と共に、がんと共にありました。
それなのに、希林さんはひとつも動じた様子がなく、飄々としておられる。
その根底には、なんとなくですが、仏教に根差した悟りのようなもの、あるいは信仰のようなものがあるように感じられました。
死をネガティブに捉えず、死があるからこそよりよく生きることができる、すべてを受け入れ肯定する姿勢に貫かれていました。
しかも真面目一徹というわけではなく、人生を面白がるという姿勢で。
面白いわよねぇ、世の中って。「老後がどう」「死はどう」って、頭の中でこねくりまわす世界よりもはるかに大きくて。予想外の連続よね。楽しむのではなくて、面白がることよ。楽しむというのは客観的でしょう。中に入って面白がるの。面白がらなきゃ、やってけないもの、この世の中。
(p.64)
人生がすべて必然のように、私のがんもまったく必然だと思っています。(略)「やり残したこと、ありませんか?」ってのがこの映画(『あん』2015年公開)の宣伝コピーだけど、私はあるっちゃいくらでもあるけど(笑)、もう人生、上等じゃないって、いつも思っている。(略)がんってのは準備ができるからありがたい。それは悲壮でもなんでもないです。
(p.119-120)
などなど。
予想外の人生を面白がって、 病気でもなんでも、この人生、上等じゃない?って、自分の人生もそう思えたら、とっても愉快だと思います。
楽しいばかりの人生じゃないから、面白がらないとやってけないくらいの人生だから、かえって面白いのかもしれません。
私はそこまで達観できそうにありませんが、飄々と、淡々と日常を生きて、見事に人生を生ききった希林さんの姿は、感嘆するだけでなく、私たちに生きる上での勇気と励まし、慰めを与えてくれるような気がします。
なんだか、希林さんのあれやこれやのおしゃべりを聞いて、うんうん頷いて、あははと笑って、よし今日も私の人生を生きよう、と思わせてくれる本でした。
ちょっと心が軽くなったような。
希林さん、ありがとうございます。お疲れさまでした。