うたたねモード

セミリタイア?っぽく生きてみる。

映画『万引き家族』を観てきました

カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)に輝いた話題作、是枝監督『万引き家族』を観に行ってきました。

 

公式HPはこちら。

gaga.ne.jp

 

観に行った映画館は、シネコン。

久しぶりに出かけたシネコンは、いつのまにか自動発券機がずらずらと導入されていました。割引適用があるため有人カウンターに行ったら、「割引も自動発券機でどうぞ」とお姉さんに言われたので、自動発券機の前へ。画面選択に若干もたつきながらもクレジット支払で無事にチケット購入できたのでした。感動です。

こういう所で全面的に機械導入するの、よいと思います。

 

是枝監督作品といえば、『歩いても 歩いても』とか『空気人形』とか『奇跡』とか『海よりもまだ深く』とか、地元ではぜんぶミニシアター(単館系映画館)で観たのですが、今作『万引き家族』は堂々のシネコン上映。是枝監督もすっかりメジャーになられたのだなぁ、と感慨を覚えました。

 

さて、二時間超の作品を観た直後の感想は、

 

うーーーーーん、、、

 

と思ったきり、言葉が出てきませんでした。

 

役者さんみなさん、上手いなー、とは思いました。舌を巻くほどに。

役者さんが達者だからこそ、かえって作りものの物語に見えてしまう側面もあって。

そもそも、物語といえるほどのストーリー(の結末)でもなくて。

社会の暗部をどんなにそれっぽく描いても、現実には追いつかないというか。

その点、たぶんこの映画では現実らしいリアルっぽさの追求が主眼なのではなくて、現実から抽出された何ものかをわたしたちの目の前に提示しようとする、ひとつの寓話なのではないだろうか、という気がしました。

 

ストーリーよりも心に残ったのは、ハッとするシーンの数々です。

 

父・治(リリー・フランキー)の何気ない日常会話の口調。

おばあちゃん(樹木希林)の前歯のない、いかにも老婆らしい口元。

髪を切ってもらったりん(佐々木みゆ)の笑顔。

後ろからりんを抱きしめる母・信代(安藤サクラ)の体温。

おばあちゃんの膝枕で甘える亜紀(松岡茉優)の声。

JK見学屋で亜紀にハグされた4番さん(池松壮亮)の声なき叫び。

浜辺ではしゃぐ家族をながめるおばあちゃんの横顔。

下着姿でそうめんをすする夫婦の間にゆらぐ熱。

祥太(城桧吏)をいさめる駄菓子屋のおやじ(柄本明)の慈悲。

車のウインドウガラスを割ってバッグを盗む父の鋭さ。

女性警察官の言葉を受けて、ゆがんだ顔を何度もこすりあげる母。

雪だるまをころがす父子の姿と雪の音。

バスの車窓から後ろを振り返る祥太のまなざし。

アパートのベランダでひとり遊ぶりんが、ふと外を見やるまなざし。

誰もいなくなった家の玄関を開けた亜紀の沈黙。

 

そこに、ガラスのかけらがこぼれ落ちるような効果音がひっそりとはさまれて。

エンドロールのクレジットを観て、そういえば細野さん(細野晴臣)が音楽担当されていたのだったと思い出したのですが、音楽らしい音楽(メロディー)はほとんど印象になく、BGMとしては静謐な映画でした。

ただ、時々はさまれる、こぼれるようなピアノ?の効果音だけが耳に残っています。

家族の危うさや繊細さ、くずれおちてしまいそうなもろさを感じさせるかのように。

 

そんなシーンに出くわすたびに、ハッとして目を留め、息をのんでいたのでした。

 

(ここから、ちょっとネタバレあります。)

 

おばあちゃんがいて、お父さんがいて、お母さんがいて、お母さんの妹がいて、息子がいて、あたらしく妹ができて。

ひとつの家族が、そこにある。

その実、赤の他人の集まり。

それぞれが、事情を抱えている。

 

おばあちゃんは、年金暮らしの孤独な独居老人。

夫婦は、不倫の末に旦那を殺した過去を持つ。

母は、産めない女。

母の妹は、おばあちゃんが不倫略奪された旦那の家に生まれた、血のつながらない孫娘(推察するに、たぶん。家出してるのか、よくわからないけど)。JK見学やでバイト。

息子は、松戸の赤いヴィッツの車の中から夫婦が連れ去ってきた?子供。

妹となる女の子は、実の親からDV、ネグレクトを受けていた子供。

いずれも、社会からこぼれおち、隠されたような人々。

 

その六人が身を寄せ合い、

孤独と引き換えに、年金を共有し、

万引きという犯罪を共有し、

子供を共有し、

居場所を共有し、

疑似家族を形成する。

 

赤の他人同士が、血のつながりではない「絆」を選び取って。

 

社会からはぐれてしまったこの六人の集まりがあえて「家族」を装うのは、社会の中で生きていくため。社会の規範に擬態するため。

年金でつながっているのかもしれないし、万引きでつながっているのかもしれない。

でも、それは方便であって目的ではない。

彼ら、彼女らは、みごとな共同体だった、ということ。

 

ラストでこの家族が引き裂かれていくことは、「社会への憤り、怒の感情」だったと公式サイトの監督インタビューにありました。

「もっと悪いことをしている人が山ほどいるのに、それをスルーしておいて、なぜ小さなことばかりに目くじらを立てるんだろう」とも語っています。

 

大きな悪は看過するのに、小さな悪には不寛容な社会。

 

このあたりが、この映画が社会批判だと受け取られるゆえんでもあり、またその意図もあるのでしょうが。

 

個人的には、そういった「怒」の感情を汲み取ることはありませんでした。

ただ、やるせなく分断された結末を目にして、「あぁ、バラバラになってしまった、また孤独になってしまった」という、救いようのない現実感に覆われて、言葉を失ってしまったのでした。

 

ですが、この記事を書くにあたり映画を振り返ってみると、現実の闇それだけではなかったと思うのです。

血のつながりがあろうとなかろうと、他者への「あたたかい気持ち」を以てつながることができれば、きっと「あたたかい家族」を形づくることができる。

自分を愛するように、他者を愛すること。

共に生きる他者を選び取り、意思を以て共に生きるということ。

それぞれの弱さを補うことで、かえって強さを得るのだということ。

わたしたちは、(血のつながらない)他者と、家族を形作り、共同体を形作れる可能性があるのだ、ということに気づかされ、そこに希望を見出すのです。

わたしがこの寓話から得たものは、そんなことだったかもしれません。

 

そんなことを考えながら、ふと思いました。

あの家族は、いつかまた再び集まって家族を取り戻すのではないか、と。

それぞれ歳をとり、また成長し、本当の家族を持つのかもしれないけれど、でも、「この家族の絆」を捨て去ることはないのではないか、と。

いつかまた、きっと、再会し、つながってほしい。

そうであってほしい、と思うのです。

 

さいごに、松岡茉優ちゃん、ほんとよかった。

リリーさんと安藤サクラちゃん、希林さんにも脱帽!

 

それから、是枝監督は文科省の祝意を受けてもよかったのではないかなぁ、と思ったりしました。(^_^;)

 

『万引き家族』

2018・日本

監督:是枝裕和

キャスト:リリー・フランキー、安藤サクラ、 松岡茉優、樹木希林、城桧吏、佐々木みゆ、ほか

おすすめ:★★★★