金木犀が咲くころ
窓の外からふっと金木犀の香りがただよってきた。
今年も金木犀の咲くころとなる。
毎年この香りに気づくと、少しだけ時間が止まっているように感じる。
秋らしい気分になるでもなく、かえって季節がいつなのかわからなくなるような、宙に浮いた感じを覚える。
暑くもなく、寒くもない外界の空気の中で、いつも季節を見失ってしまう。
曇天の下、あまい香りに包まれて静止する。
物心ついた頃から、庭の一隅に金木犀はずっと立っていて、ひそやかに花をつけては、ふっと時を止める。
いつも金木犀は香っていた。
まだ手術をする前、窓を開けて泣きそうな曇り空を眺めている時も。
手術をして体調がよくなり、午後の仕事を終えて帰ってきた曇り空の夕暮時も。
社会からドロップアウトした平日の昼下がり、Spotifyを流しながら曇り空を見やる今日も。
わたしはどうなるのか。
これからどこへ行くのか。
まったく先の見えない不安を抱いていたあの時も。
わたしはどう生きられるのか。
何を問われ、どうこたえて生きるべきなのか。
この人生を引き受ける覚悟を抱きつつある今も。
止まっている時の中で、過ぎ去った時を振り返る。
しんしんと時間が降り積もるような静けさ。
金木犀が咲くころの、変わらない風景。